仕事が終わって、
家に帰る。
鍵を開けて、
電気をつけて、
バッグを置く。
今日も一日、
ちゃんと頑張った。
誰かに褒めてもらうほどのことではないけれど、
嫌なこともあったし、
言いたいことを飲み込んだ瞬間もあった。
それでも、
いつものように仕事を終えて、
いつものように家に帰ってきた。
静かな部屋で、
テレビをつける。
別に見たい番組があるわけでもない。
ただ、
何も音がしないのが、
少し寂しいだけ。
そんな夜がある。
・・・若い頃は、
「結婚したい」
という言葉の意味を、
もっと華やかなものだと思っていた。
好きな人がいて、
デートをして、
プロポーズされて、
結婚式をして。
そんな未来を想像していた。
でも、
30代、40代になってくると、
少しずつ変わってくる。
欲しいのは、
特別な毎日ではなくなる。
朝、
「いってらっしゃい」
と言ってくれる人。
夜、
「おかえり」
と言ってくれる人。
疲れて帰ってきた日に、
「今日どうだった?」
と聞いてくれる人。
そんな、
何でもない日常が欲しくなる。
恋愛したいのかと聞かれると、
自分でもよく分からない。
毎週デートをしたいわけでもない。
LINEを一日中していたいわけでもない。
胸が苦しくなるほど、
誰かを好きになりたいわけでもない。
ただ、
自分の今日を知っている人が、
一人いてくれたらいい。
そう思う夜がある。
・・・一人で生きることには、
ずいぶん慣れた。
一人でご飯を食べられる。
一人で旅行にも行ける。
家電が壊れれば、
自分で調べて買い替える。
体調が悪ければ、
薬を飲んで早く寝る。
仕事で嫌なことがあっても、
翌朝にはちゃんと起きる。
いつの間にか、
一人でできることばかり増えた。
だから、
「一人でも生きていける」
それはたぶん、本当だと思う。
でも。
一人で生きていけることと、
一人で生きたいことは、
同じではない。
休日のスーパーで、
夫婦らしい二人を見かける。
「これまだ家にあったよね」
「じゃあ今日はこっちにしようか」
そんな、
本当にどうでもいい会話をしている。
昔なら、
何とも思わなかった光景なのに。
なぜか今日は、
少しだけ目に残る。
羨ましいのは、
夫婦という形ではないのかもしれない。
自分以外の誰かと、
今日の夕飯を考えていること。
その人の好きなものを、
なんとなく知っていること。
冷蔵庫の中身を、
二人とも知っていること。
そんな生活なのかもしれない。
・・・婚活をしていると、
年収。
年齢。
学歴。
身長。
住んでいる場所。
休日。
プロフィールには、
たくさんの条件が並ぶ。
もちろん、
どれも大切なことだと思う。
でも本当に探しているのは、
その条件の向こう側にあるものなのかもしれない。
雨が降った日に、
「傘持った?」
と言ってくれる人。
少し元気がないときに、
「なんかあった?」
と気づいてくれる人。
そして何十年か経って、
「今日は何食べる?」
と聞ける人。
結婚は、
人生を劇的に変えるためだけにするものではないと思う。
何でもない一日を、
誰かと一緒に過ごすためのものでもある。
特別な場所へ行かなくてもいい。
毎日、
愛を語らなくてもいい。
同じ部屋にいて、
別々のことをしていてもいい。
それでも、
「この人がいる」
と思えること。
もしかしたら、
大人になってから求める結婚は、
そんなものなのかもしれない。
夜、
玄関のドアを開ける。
今日も部屋は静かだ。
でももし、
その静かな部屋に帰りながら、
「いつか誰かに、おかえりと言ってもらえたらいいな」
と思ったのなら。
それは、
寂しさに負けたわけではない。
誰かと人生を歩きたいという、
とても自然な気持ちなのだと思う。
焦らなくてもいい。
無理に恋をしなくてもいい。
ただ、
その気持ちだけは、
なかったことにしなくていい。
誰かに会いたいわけじゃない夜。
恋がしたいわけでもない夜。
ただ、
「おかえり」と言ってくれる人がいたらいいな。
そんな夜から始まる結婚も、
きっとあります。